聖書が語る「死後の世界」(2)死後の世界は存在する

空

聖書は、死後の世界があると教えています。一般には、天国、地獄と呼ばれる世界のことです。今回は、死後の世界の存在について、聖書が何を語っているかを取り上げます。

死後の世界の存在を信じない人々

この世界には、死後の世界は存在しないと考える人がたくさんいます。NHKが2018年に実施した世論調査によると、回答者の34.1%が「死後の世界はない」としています(「決してない」が8.4%、「たぶんないと思う」が25.7%)1。宇宙物理学者のスティーブン・ホーキングは死後の世界の存在を否定して、次のように語っています。

私は脳を、部品が壊れれば動かなくなるコンピュータのようなものだと考えている。天国も、死後の世界も存在しない。壊れたコンピュータに来世がないのと同じだ。それは、暗闇を恐れる人々のための作り話にすぎない。

I regard the brain as a computer which will stop working when its components fail. There is no heaven or afterlife for broken down computers; that is a fairy story for people afraid of the dark. 2

ホーキングの言う「暗闇を恐れる人々」とは「死後のことがわからないので、死を恐れている人々」という意味でしょう。そういう人々が、天国という幻想を作り上げているのだという見方です。私自身も、かつてはそういう見方をしていました。

MEMO
ホーキングの見方は「物質主義」と呼ばれるものです。物質主義とは、世界の本質は物質であり、それ以外のもの(例:神、霊的世界など)は存在しないとする世界観です。

死後の世界の存在を信じる人々

一方で、死後の世界を信じる人も、死後の世界を信じない人と同じ程度の割合でいます。先述のNHKの世論調査では、37.4%の人が死後の世界を信じています(「絶対にある」5.3%、「たぶんあると思う」32.1%)。

死後の世界を信じる人が相当数いることは、有名な芸能人などの葬儀で「あいつは今頃、あの世で昔の仲間と酒を酌み交わしているだろう」といった言葉がよく聞かれることからもわかります。また、普段は無神論的な考え方を持っている人でも、葬儀の場で「あいつは灰になって無に帰った」と言う人はいません。人は、死者を前にすると、その人の冥福を祈らざるを得ない思いになるからです。それは、心の奥底では、死後の世界があることを感じ取っているためでしょう。だから、人が死ぬと、その人は今どこにいるのか、どうしているのかが気になるのです。

天国の存在を信じる若者

一般的には、若者よりも老人の方が死後の世界や天国を信じているというイメージがあると思います。しかし、そうではないことを示す興味深い調査結果があります。NHKが2009年に実施したアンケート調査によると、「死後の世界はある」と回答した人の割合が、年齢別で以下のようになっています。3

NHK世論調査(死後の世界はあるか)

このグラフを見ると、死後の世界を信じている人は、60歳以上の年齢層では男性29%、女性34%しかいないのに対して、16~29歳の年齢層では男性48%、女性65%と、男女共に約20%も上回っていることがわかります。

この傾向は、物質主義的な世界観を若い世代が拒否していることを示しています。かつてはマルクス主義の「唯物史観」などで、天国や地獄といった迷信は科学や社会が発展するにつれてなくなっていく、と予測されていました。しかし、上記のような調査結果を見ると、時代が進むにつれて死後の世界を信じる人が増加しているという、唯物史観からすると逆転現象が起きていることがわかります。

また、1998年に実施された同様の調査と比較すると、2009年の調査では「死後の世界がある」と回答した人は全体でも37%から44%に増加しています。そのため、日本全体を見ても、死後の世界を信じる人が増加していることがわかります。これも物質主義的な世界観が拒否されつつあることを示しています。これは、日本が戦後、高度経済成長で復興を成し遂げ、経済大国になったものの、物質的に豊かになるだけでは幸せにはならなかったという失望感から来ているように思います。

物質主義のむなしさ

映画『トゥルーマン・ショー』などで知られるジム・キャリーという俳優がいます。ジム・キャリーは、物質主義的な成功を収めても、心が満たされることはないということを自身の体験から次のように語っています。

みんなが一度は金持ちになって、有名になって、夢見ていたことをすべてやってみたらいいと思う。そうすれば、それが人生の答えではないとわかるよ。

“I think everybody should get rich and famous and do everything they ever dreamed so they can see that it’s not the answer.”4

また、1億5千万部以上の小説を売り上げたベストセラー作家のジャック・ヒギンズは、キャリアの絶頂期に学び、子どものころに知っておきたかった一つのことは、「頂点にたどり着いても、そこには何もない」ということだと語っています。

天国の存在を信じる無神論者

物質主義に立っているはずの無神論者の間でも、変化が起きています。インターネットメディア『ハフポスト(The Huffington Post)』の2016年の記事によると、海外で実施されたアンケート調査で次のような興味深い結果が出ています。

 このテーマ(訳注:死後の世界)に関するある研究によると、無神論者、不可知論者*、無宗教者のうち、実に32%が「死後のいのち」を信じていると答えたという。カリフォルニア州立大学ベーカーズフィールド校の宗教学教授、スタッフォード・ベティ博士(Dr. Stafford Betty)は、次のように語っている。
 「この新しい立場は、現代の西洋社会で広まり始めており、興味深いかたちで現れている。教会の出席率は低下している一方で、死後の世界への信仰は強まっているのだ。これは特に、20代から30代前半のミレニアル世代に当てはまる」

One study on this subject found an astonishing 32 percent of atheists, agnostics, and non-religionists claim to believe in life after death. According to Dr. Stafford Betty, Professor of Religious Studies at California State University in Bakersfield, “This new view is beginning to catch on in contemporary Western society and shows itself in an interesting way: While church attendance is declining, belief in an afterlife is growing, both in the U.S. and Britain. This is especially true among Millennials in their twenties and early thirties.”5

MEMO
「不可知論者」とは、神がいるかどうかは知ることができないとする立場の人のことです。

「無神論者、不可知論者、無宗教者」の32%が「死後のいのち」を信じているという結果は驚くべきものです。神や仏を信じていなくても、死後の世界はあって、魂は死後も生き続けると信じているのです。これは物質主義に立つ無神論者の考え方からすると矛盾ですが、論理的な矛盾があってもなお、死後のいのちは否定しがたいものなのです。

天国を慕い求める人間の心

死後に天国に行くことができるという信仰は、日本や欧米だけではなく、世界的に見られる現象です。たとえば、古代エジプト人は死後も魂は存続し、義人はオシリスの審判を経て「葦の野」と呼ばれる楽園に住むとされました。また、先住アメリカ民族の一部は、死後、魂は「天の霊界」と呼ばれる楽園で自然と調和して暮らすと信じていました。

ケンブリッジ大学教授で『ナルニア国物語』の著者でもあるC・S・ルイスは、人はなぜ天国の存在を信じるかという問いに対し、次のような言葉を残しています。

もし私の中に、この世の何物も満たすことができない渇望があるとしたら、唯一論理的に説明できるのは、私が別の世のために作られたということだ。

“If I find in myself desires which nothing in this world can satisfy, the only logical explanation is that I was made for another world.” – C.S. Lewis

またルイスは、人のお腹が空くのは、この世界に食べ物が存在するからだというたとえを使って、人が天国を求めるのは、天国が実際に存在するからだと語っています。

人の心が直感的に知っていること

人にはなぜ死後の世界を信じる思いがあるのでしょうか。その答えは、聖書に記されている次のことばにあります。

11 神のなさることは、すべて時にかなって美しい。神はまた、人の心に永遠を与えられた。…(伝道者の書3:11)

人の心は永遠の世界を知っているので、人の意識は死後も続くこと、死後の世界があることを直感的に知っているのです。そのため、理屈では「死んだらそれで終わり」と思っていても、天国への思いを断ち切れないのです。

聖書は天国の存在を証言している

聖書は、旧約・新約聖書を通して、天国が存在すると証言しています。また、天国がどういう場所かについても語っています。その中でも特に有名なのが、イエス・キリストが語った「ラザロと金持ち」の話です(ルカ16:19~31)。死後の世界がこれほど明確に描写されている箇所はほかにないことと、ほかの誰でもないイエス・キリストご自身が語っておられる言葉だからです。

ラザロと金持ちの話

この話は次のように始まります。

19 ある金持ちがいた。紫の衣や柔らかい亜麻布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮らしていた。 20 その金持ちの門前には、ラザロという、できものだらけの貧しい人が寝ていた。 21 彼は金持ちの食卓から落ちる物で、腹を満たしたいと思っていた。犬たちもやって来ては、彼のできものをなめていた。 22 しばらくして、この貧しい人は死に、御使いたちによってアブラハムの懐に連れて行かれた。金持ちもまた、死んで葬られた。(ルカ16:19~31)

この話には、金持ち、ラザロ、アブラハムという3人の登場人物が出てきます。この3人の人物を通して、死後の世界が語られていきます。

時々、このイエスの話はたとえ話で、現実の話ではないと言う人がいます。しかしそうではありません。イエスのたとえ話に登場するのは、「父」「兄と弟」「裁判官」など、すべて匿名の人物です。一方、ここでは「ラザロ」「アブラハム」という名前が出てきます。これは事実に基づいた話であることを示しています。「金持ち」だけが匿名になっているのは、おそらく、キリストがこの話を聞いている人に自分のこととして受け止めてほしいと考えておられたからでしょう。現に、この話を聞いていたのは「金銭を好むパリサイ人たち」(ルカ16:14)だと言われています。

次の箇所から、死後の世界の描写が始まります。

23 金持ちが、よみで苦しみながら目を上げると、遠くにアブラハムと、その懐にいるラザロが見えた。 24 金持ちは叫んで言った。『父アブラハムよ、私をあわれんでラザロをお送りください。ラザロが指先を水に浸して私の舌を冷やすようにしてください。私はこの炎の中で苦しくてたまりません。』
25 するとアブラハムは言った。『子よ、思い出しなさい。おまえは生きている間、良いものを受け、ラザロは生きている間、悪いものを受けた。しかし今は、彼はここで慰められ、おまえは苦しみもだえている。 26 そればかりか、私たちとおまえたちの間には大きな淵がある。ここからおまえたちのところへ渡ろうとしても渡れず、そこから私たちのところへ越えて来ることもできない。』 

この箇所から、死後の世界に関して以下のことがわかります。

  • 死後も意識はある。
  • 死後も生前の記憶がある。
  • 死後もその人だと認識できる。
  • 死後の世界には苦しみの場所と慰めの場所がある。
  • 苦しみの場所と慰めの場所の間を行き来することはできない。

死後の世界の「苦しみの場所」がいわゆる「地獄」、「慰めの場所」が「天国」と言えるでしょう。ただ、聖書には「地獄」と呼べる場所も「天国」と呼べる場所も複数あり、ここが終着駅ではありません。この点については次回に詳しく説明しますので、今は次に進むことにしましょう。

27 金持ちは言った。『父よ。それではお願いですから、ラザロを私の家族に送ってください。 28 私には兄弟が五人いますが、彼らまでこんな苦しい場所に来ることがないように、彼らに警告してください。』
29 しかし、アブラハムは言った。『彼らにはモーセと預言者がいる。その言うことを聞くがよい。』
30 金持ちは言った。『いいえ、父アブラハムよ。もし、死んだ者たちの中から、だれかが彼らのところに行けば、彼らは悔い改めるでしょう。』 
31  アブラハムは彼に言った。『モーセと預言者たちに耳を傾けないのなら、たとえ、だれかが死人の中から生き返っても、彼らは聞き入れはしない。』」

「モーセと預言者たち」とは、旧約聖書全体を指す言葉です。キリストが地上生涯を生きている間は、新約聖書がまだ存在していないので、この当時では「聖書全体」という意味です。このアブラハムの言葉から、聖書に耳を傾けない人は苦しみの場所に行くことが示唆されています。

この箇所から、そのほかに以下のことがわかります。

  • 死者の世界と生者の世界の間を行き来することはできない。
  • 特に、苦しみの場所にいる人はそこから出ることはできない。つまりセカンドチャンスはない。
  • たとえ死人が生き返って忠告したとしても、聖書を信じない人は信じない。
  • 地獄にいる死者は、家族が自分と同じ所に来ることがないようにと切に願っている。

日本人はよく「先祖や家族が地獄にいるなら、自分も地獄でいい」と言います。しかし、苦しみの場所にいる金持ちの言葉から、これほど先祖や家族の思いと遠い言葉はないことがわかります。もし先祖や家族が地獄にいて、あなたのことを少しでも愛しているなら、同じ苦しみを絶対に味わってほしくないと思っているはずなのです。

まとめ

聖書は、死後の世界が存在すると明確に証言しています。また、人間の心も、死後の世界の存在を直感的に感じ取っています。神が人に永遠を思う心を与えられたからです。そのため、人はこの世で与えられるもの以上のものをどこかで求めているのです。

脚注

  1. 小林利行「日本人の宗教的意識や行動はどう変わったか ~ ISSP 国際比較調査「宗教」・日本の結果から~」(NHK世論調査部)(https://www.nhk.or.jp/bunken/d/_data/research/yoron/BUNA0000010690040003/files/20190401_7.pdf)

  2. Ian Sample, “Stephen Hawking: ‘There is no heaven; it’s a fairy story,’” Guardian, 15 May 2011 (https://www.theguardian.com/science/2011/may/15/stephen-hawking-interview-there-is-no-heaven)

  3. 西久美子「“宗教的なもの” にひかれる日本人 〜ISSP国際比較調査(宗教)から〜」(NHK世論調査部)(https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2009_05/090505.pdf)

  4. Matt Smethurst, “Is There Proof of Heaven?” (https://www.thegospelcoalition.org/article/is-there-proof-of-heaven/)

  5. Stafford Betty, “The Looming Divorce Between Religion and the Afterlife,” The Huffington Post, 1 Sep 2016 (http://www.huffingtonpost.com/stafford-betty/the-looming-divorce-between_b_11785808.html)

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