ローマ12:10
兄弟愛をもって互いに愛し合い、互いに相手をすぐれた者として尊敬し合いなさい。
今日の霊想:祈りで支える友
二百年ほど昔、南イタリアの田舎に地主の息子で大説教家を夢見ているマリオという少年と、親友で、貧しい靴屋の息子アンセルモという少年がいた。マリオはやがて修道院に入って勉強をするために村を出ていった。アンセルモは彼を励まして見送った。「マリオ、ほくは君のために祈っているよ」
数年して、アンセルモもマリオの学ぶ修道院で召使いとして働くことになった。こうしてマリオの身近で、彼のために祈りを続けていた。
マリオが司祭となり、初の説教をする日がきた。彼は落ちつかず、廊下を歩き回っていた。すると召使いのアンセルモが近づいてきて、ささやいて通りすぎて行った。「マリオ様、あなたのために祈っています」。説教壇に立ったマリオは、大勢の会衆を見わたした。すると、隅の柱の陰に座して一心に祈っているアンセルモの姿が見えた。彼の説教は、おおきな感動を人々に与えた。
マリオ司祭はしだいに名説教家として知られるようになっていった。彼の行くところどこでも、従者アンセルモがともにいて、陰の祈りをもって支えていた。やがて、マリオはローマの聖ペテロ寺院で説教するという栄誉を与えられた。幼いときから持ち続けてきた夢が実現したのであった。彼は、今までなしてきた名説教の自信に満ちていた。彼は、名説教家としての位置を永久に不動とするこの時を信じて疑わなかった。だが、聖ペテロ寺院での弁舌さわやかな大説教に、人々は感動を示さなかった。
彼は感じた。「説教は失敗したのだ」。その日、マリオはアンセルモを捜した。そして知ったのは、その朝、マリオのことを思いつつ天に召されていったということだった。
数日後、粗末なアンセルモの墓の前で一心に祈っているマリオを、修道院長が見つけた。「マリオ、あなたは再び前のような名説教ができるようにと祈っているのですか」。マリオはふりかえると静に答えた。「いいえ、私にアンセルモのような謙遜さをお与えくださいと、祈っていたのです」
CD-ROM 版 キリスト教例話集 Ver.5 より
(精選) K.N.
出典:中川健一『月刊デボーションガイドClay【クレイ】2016年3月号』(ハーベストタイムミ二ストリーズ)p.27
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