「神を信じている者は、自然現象に対して疑問を持ち、説明しようとすることを放棄して、すべてを神にゆだねてしまっている、それは人間の進歩を止めてしまう思考停止である」という考え方に対して、名古屋大学名誉教授の素粒子物理学者、三田一郎博士は次のように語っています。
人間には神をすべて理解することは永遠にできません。しかし、一歩でも神により近づこうとすることは可能です。近づけばまた新たな疑問が湧き、人間は己の無力と無知を思い知らされます。だからまた一歩、神に近づこうという意欲を駆り立てられます。『もう神は必要ない』としてこの無限のいたちごっこをやめてしまうことこそが、思考停止なのであり、傲慢な態度ではないのでしょうか。科学者とは、自然に対して最も謙虚な者であるべきであり、そのことと神を信じる姿勢とは、まったく矛盾しないのです。
三田一郎『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』(講談社、2018年)
写真:岡本祐幸, CC 表示-継承 4.0, リンクによる